自分に向いている働き方って?

誰にでも、仕事の向き不向きを感じる瞬間があるはずです。ですが、向いていないのは仕事自体ではなく「仕事の仕方」かもしれません。キャリアにおいて重要なのは目標ではないというお話は本連載のvol.1でもしましたが、大切なのは、普段の仕事の仕方なのです。そこで今回は、向いている働き方をどう探すかについて考えていきたいと思います。

公開 : 2024/10/02 更新 : --/--/--

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※このコンテンツは、転職サイト『type』の記事を転載したものです。

お話を伺った方
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高橋俊介さん

元慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授

キャリア開発の研究で第一人者として知られる。東京大学を卒業後、日本国有鉄道に入社。1984年、米プリンストン大学工学部修士課程を修了し、マッキンゼーアンドカンパニーに入社。89年には世界有数の人事組織コンサルティング会社ワイアットの日本法人(現ウイリス・タワーズワトソン)に転職し、93年より同社代表取締役社長に就任。97年に退任、独立後も、人事コンサルティングや講演活動を続けている。

自分らしさを表わす「心の利き手」

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向いている働き方の探し方について考える前に、行動の動機という概念をご説明します。ここで言う動機とは、その人が内に持っている指向性のようなものです。ユング心理学の一部の人たちは、この指向性を「心の利き手」と呼んでいます。

利き手とは、意識せずとも無理なく使うことができる手のことです。利き手ではない方の手で字を書くには、意識しないといけませんよね。書けないことはないかもしれませんが、力が入ってしまって上手くいかず、ストレスが溜まります。これと同じで、仕事が向いていないと思う瞬間というのは、自分らしい働き方ができていない、つまりは心の利き手を使えていない瞬間かもしれません。

二種類の心の利き手

この心の利き手のうち、典型的で遺伝性が高いといわれているのが「新奇探索指向」と「報酬依存指向」です。

1.新奇探索指向
新しいことにどんどん突進していき、いつでもワクワクしたりドキドキしていたいという心の指向です。この指向が低い人は、同じことをずっと続けていても飽きることはありません。

2.報酬依存指向
ここでいう報酬とは、人間関係などの社会的報酬を指します。報酬依存指向が強い人は、人に認められ、つながっているという感覚を大切にするため、自分が信頼する人からのアドバイスが効きやすいのです。

指向性は遺伝子で決まる?

心の指向の形成は、遺伝子のスニップが関連しているとされています。スニップとは、遺伝子のうち他者とは異なるわずかな部分のことです。この違いで、体質や病気の掛かりやすさ、薬の副作用などが生まれます。心の指向も同じなのです。新奇探索指向はドーパミンの受容体の、報酬依存指向の場合はノルアドレナリン受容体の性能を決めるスニップに関連しているといわれています。つまり、ある程度の心の指向は持って生まれたものなのです。その後、生活環境によって自我が確立するまでの間に、心の利き手はほぼ決まってしまいます。しかし、心の成熟度は何歳からでも鍛えることができますよ。

どんな心の利き手であったとしても、利き手に良いも悪いもありません。大切なのは使い方です。例えば、異なる利き手の人とは上手くやっていけない、なんてことはありません。もとをたどれば、性格は全員異なるのですから。異なる利き手を持つ人と上手くやっていくための努力を、互いにしているかどうかが問題なのです。

あなたはどのタイプ?「内なるドライブ」

仕事における動機の例を、より具体的に考えてみましょう。自分のやる気に自然と火をつけるような動機について、今回は特性論という考え方に基づいて私なりの言葉で整理してみました。

1.コミットメント系の動機
達成欲や影響欲、称賛欲、闘争心などに対する積極的に関与していこうという動機を指します。例えば、プロスキーヤーであり登山家の三浦雄一郎さんは、80歳を超えてなおエベレスト登頂のために努力を続けるほどの達成動機の持ち主です。ビジネスに置き換えると、創業経営者に多く、高い目標に向かっていく過程そのものが最も自分らしいというタイプですね。その他、影響欲はパワー動機と言い換えられることもありますが、周囲に影響を与えていきたいという気持ちのことです。称賛欲は読んで字のごとく、称賛されたいという気持ちを指します。

2.リレーションシップ系の動機
社交性、理解欲、伝達欲、そして感謝欲といった人間関係に基づいた動機のことです。社交性の高い人は、たまたま出会っただけの人であっても仲良くなりたいという気持ちを持っています。タクシー運転手や美容師ともすぐに会話が弾む人がこのタイプです。理解欲とは深層心理まで含めて相手を理解したいと思う気持ち、伝達欲とは人に何かを伝えたいと思う気持ち、感謝欲は人から「ありがとう」と言われたいという気持ちのことです。

3.エンゲージメント系の動機
ここでいうエンゲージメントとは、自然とのめり込んでしまうことを指します。抽象概念指向、徹底性、自己管理欲などが挙げられます。抽象概念指向が強い人は、抽象的な事柄を概念として理解していくことが好きなため、ソフトウェアのエンジニアなどに多いかもしれません。徹底性とは何事も手を抜きたくないという気持ち、自己管理欲とは全部自分で決めて仕切っていきたいという指向のことです。

自分の動機を正しく理解しよう

自分の動機を正しく理解しようのイメージ-type転職エージェント

みなさん、心当たりのある動機はありましたか?コミットメント系、リレーションシップ系、エンゲージメント系のどれか一つに偏る人もいれば、それぞれにいくつかあてはまるものがある人もいるでしょう。当てはまったものがあなたの心のドライブです。その心のドライブが、自分らしく仕事を進めていくヒントになるでしょう。

しかし、心のドライブから向いている仕事の進め方を見つけることはできても、向いている職種を見つけることは難しいので注意が必要です。例えば、感謝欲の強い人が看護師になったとしても、理解欲が低ければ患者さんの気持ちをくみとることができないため、一方的なお節介となってしまう可能性があります。さらには、勤める科によって求められる素養も異なりますよね。

よって、「仕事の向き不向き」よりも「自分らしく仕事を進められるか」という視点が重要なのです。

心の動機が「向いている」という自信につながる

自分らしく仕事を進めるためにも、心の動機を仕事に上手く生かしていきましょう。例えば、闘争心が強い人が営業を行う場合、ライバルの存在を意識すればよいのです。競合会社でもよいですし、社内の同僚でも構いません。絶対に負けない、という気持ちで仕事に取り組むことで、自分らしく働けるのではないでしょうか。達成動機が強い人であれば自分にとってのエベレストとなるような目標を持つとよいですし、伝達欲が強いのならばプレゼン力を磨くことで成果につながっていくかもしれません。

このように、自分らしいやり方で成果を出すことができたなら、「この仕事に向いている」と思えるようになるはずです。もちろん、どんなに強い動機があっても「向いていないのでは」と思う瞬間もあります。ですが、動機を使って自然体で成果に結びつける経験を重ねていけば、向いていると思える瞬間も増えてくると思いますよ。

自分の動機に忠実に働くためには、本連載のvol.2内、主体的ジョブデザイン行動でもお伝えしたように、上司から言われた通りにしているだけではいけません。上司が言うやり方は、彼らがやりやすいやり方でしかないのです。試行錯誤しながら、自分の心の利き手、自分の動機を生かした働き方を探していきましょう。

企画・撮影協力/ ビジネス・ブレークスルー(BBT)

※このコンテンツは、2016年にtypeメンバーズパークに掲載された動画を新たに記事化したものです。文中の組織名・肩書きは当時のものです。

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