ドゥテルテ政権発足から2年を迎えるフィリピンのいま(後編)

ドゥテルテ政権発足から2年を迎えるフィリピンのいま(後編)

武藤卓麻
2018 / 8 / 21

前回の更新から時間が経ってしまいましたが、
現地での採用ニーズも高いフィリピンの実態についてになります。
訪比では、主にマニラ首都圏と国内最大級の刑務所であるモンテルンパ刑務所を視察してきました。
ここからはフィリピンにおける社会問題別に取り上げたいと思います。

■治安/麻薬中毒者対策への実情

薬物の乱用、麻薬取引は減少、抑制されているのか?現地でのインタビューをしてきました。
実感値として、2016年のドゥテルテ政権発足後と比較すると、麻薬犯罪の収監者数は減少傾向にあるとの事。要因としては、中毒者の手元にそもそも麻薬が渡りにくくなった点が一つの理由であろうとのことでした。

ドゥテルテ政権発足後、都市部から順次監視カメラの設置が進められ、取引現場の監視が非常に厳しくなっているよう。実際に私も街を歩く中で至る所でカメラが設置され、セキュリティと警察官が配備されている現場を目にしました。

また、ドゥテルテ氏の麻薬中毒者に対する狂気的な射殺計画も継続しており、これも抑制に繋がっているとの事。保身(殺害されない為)を目的として、意図的に軽犯罪を犯し、刑務所への収監を希望されることも多いそうです。これも起因し同刑務所の収監人数も2万人(4年前1.3万人)を超え、4,5人収容の部屋に20人ほどが収監されているとのこと。

フィリピンには死刑がなく、最重刑が終身刑のため、上記のような傾向が見られるようでした。

狂気的な施策を実施し、麻薬中毒者への恐怖を煽りつつも、麻薬犯罪をはじめとした治安維持を目的とした管理も徹底されているドゥテルテ氏の綿密さを感じました。

モンテルンパ刑務所に行って驚いたのは、刑務所周辺に平然と囚人が歩いている光景があること。軽犯罪であれば日中の外出は許可されている囚人もいるようです。

また、治安対策に対しての実情は、前述のとおり街中には警察官、セキュリティが巡回しており、凶悪犯罪も含め減少傾向にあるよう。実際に見た光景として、大半の商業施設やホテルのエントランスには、X線を通す機械があり、荷物チェックが必ずある。また、火薬の匂いを嗅ぎ分ける警察犬も配備されているホテル・商業施設もありました。

「治安が悪い」というイメージが浸透されているマニラだが、今回の訪比ではあまり感じられなかった。現在は施行されていないものの、数ヶ月前まで22:00以降の外出禁止令がドゥテルテ政権下で発令されていた、との話もうかがいました。

■汚職対策に対する実情

「汚職は無くなっているのか?」単刀直入に聞いてみたところ、返ってきた回答としては、No!でした。ドゥテルテ大統領就任後、国内に蔓延る汚職役人の摘発を叫び効果が出ているようなニュースが流れているが、実態として進んでいないとの事。確かに汚職に関する摘発と報道が増加しているものの、まだまだ氷山の一角と捉えているよう。今まで見て見ぬフリをされてきた汚職が、表面上に浮き彫りになってきたに過ぎない、というのが見解。

しかしながら、ドゥテルテ大統領が法律家出身であることもあり、汚職に対して強固な姿勢を見せているのは事実であり、連日ドゥテルテ氏の会見でも触れられる話題であるとのこと。関税局、内国歳入局といった特定部門から解決後、汚職撲滅に期待しているフジタ氏や国民の気持ちもあるそう。

また、政治的な汚職は壊滅できていないものの、アンダーテーブル(賄賂)はほとんど無くなっているのではないか、という事でした。数年前であれば、空港や警察、刑務所でのアンダーテーブルが多く横行されていたようですが、多数の監視カメラの設置もあり、管理が厳しくなったことにより、アンダーテーブルはほとんど見なくなった、という事。

実際に私もお金の準備はしていたが、空港の手荷物検査ではアンダーテーブルの要求はされませんでした。

■マニラの環境と生活

①マカティ中心地と郊外(スラム街)

商業中心地であるマカティは日本の丸の内と銀座が合わさったイメージに近い、高層ビルやホテル、高級ブランドショップが建ち並んでいる。比較的綺麗な服装の方が多く、国内でも富裕層が生活する地域であると感じました。

しかしながら、このような華やかに見られる地域は1キロ四方程度であり、少し歩くと荒れた家々やスラム街がありました。また、所々に「避難所」と呼ばれる家が無い方々が住む居住区があり、簡素な家の作りで、ブルーシートを広げて屋根とされていました。

現地の子供たちに一緒に写真撮ってほしい、とお願いをするとすぐに快く受け入れてくれたが、撮影後、「Money」とお金が欲しいとせがまれる。

スラム地域には電気が通っていないところもあり、教育も満足に受けられない子供もいる。学費免除をドゥテルテ政権の施策であったが、学業より目先の仕事、お金を優先しなくてはならない生活レベルの国民も多いことが感じられました。マカティ市外から僅か数キロ離れた場所の環境とのギャップに驚かせられました。

①マカティ中心地と郊外(スラム街)

事前情報でも把握はしていたが、想像以上の交通渋滞でした。各所でクラクションも鳴り止まない。マニラ首都圏をタクシーで移動していましたが、5キロくらいの距離でも1時間近く要する時もありました。マニラ首都圏に地下鉄が無いことや、国有鉄道も走っているが駅が点々としている為から、移動手段が必然的に自動車の利用となってしまっているよう。

また、路線バスの役割を担っているジプニーも交通渋滞の要因になっているのではないか、と感じ、不定期に各所で停車するため、交通の妨げになっている様子が伺えました。

高速道路も通っているが、早期なインフラ整備(特に地下鉄)が必要であると感じました。

既に日系の製造業であるトヨタ、三菱、ホンダ、いすずも工場や拠点を構えているが、慢性的な交通渋滞は、流通の利便性、コストなどを鑑みて、製造業の進出にて抑制がかかってしまう可能性がある。製造業の進出が進まない限り、新規の雇用創出へも繋がらず、貧困の解決の妨げになってしまうのではないかと感じられました。


上記のとおり、実態としての課題は諸々山積みではありますが、1億人を超える雇用供給と理想的な人口ピラミッド、英語圏、賃金等々、多角的な観点から今後のASEAN諸国の牽引するようなビジネスチャンス、伸びしろが期待できる国だと感じられました。

既に、日本人駐在員も多くいるフィリピンですが、今後の更なる人員需要も創出される可能性が期待されると思います。