職種経験があっても採用されない? 人事経験者が転職でぶつかる壁と攻略法

職種経験があっても採用されない? 人事経験者が転職でぶつかる壁と攻略法

野武くるみ
2024/02/27

数ある職種の中でも、「人事」は人気の高い職種です。人材、すなわちヒトは、モノ、カネ、情報と並ぶ、四つの経営資源の一つとされています。その人材の活用について考える人事は、企業の根幹を担う重要な仕事ですから、人気があるのもうなずけますよね。

また、2023年3月から、有価証券報告書に人的資本に関する情報を開示することが義務化されました。これにより、各企業は、従業員のエンゲージメントの向上や管理職の女性比率アップを目指し、人事制度改革や組織開発に一層力を入れるようになっています。こうした文脈でも、人事経験者の市場価値は、さらに高まっているのが現状です。

職種経験を生かした「人事→人事」の転職は成功しやすいですが、経験があるにも関わらず内定獲得に苦戦してしまう方もいらっしゃいます。人事経験者であればご存知だと思いますが、人事とひとくちに言っても、業務の内容はさまざまですよね。実は、経験している領域の幅が狭いと、転職先が見つからない、年収が上がらないといった困難に陥ってしまいやすいのです。

人事として長く活躍したいと考えるならば、若いうちから計画的に経験を積む必要があります。

そこでこの記事では、意外と幅広い人事職の業務内容と、取り得るキャリアパスのパターンをあらためて整理していきたいと思います。

人事の業務内容とキャリアの注意点

人事という職種は、メインとする業務内容ごとに、「採用」「研修」「制度企画」「労務」の四つの職種(領域)に分けることができます。大手企業であればこれらがしっかり部署として分かれていることが多いですが、中小企業やベンチャー企業だと、「採用も研修もやります!」といったように複数の人事業務を兼務することも多いです。

先ほど、「経験している領域が狭いと転職で苦労する」と申しました。まずは、それぞれの職種について、業務内容に触れつつ「どう転職が難しいのか」を解説していきたいと思います。

採用人事について

会社の成長には、人材の確保は必須。その責任を負うのが採用担当者です。さらに細かく、「新卒採用」と「中途採用」に分かれます。

主な業務内容は、採用手法の選定(スカウト/人材紹介/ヘッドハンティング/求人広告など)から、採用要件の作成、書類選考や面接官、内定者のフォローなど、自社の新しい仲間を獲得するまでのすべてを担います。

誰しも就活を通して出会ったことがあるため、4つの人事職の中でも認知度が高く、「人事と言ったら採用」というイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。しかし、採用担当だけで30代になってしまうのは要注意です。採用業務の経験しかないままだと転職時に応募できる求人はそう多くない可能性があります。

なぜなら、多くの企業で30代にはマネジメント経験が求められるから。人事部門のマネージャーとなれば、採用以外の業務にも精通していなければなりません。20代のうちに、他の業務にも携わっておくのがおすすめです。

研修担当について

研修担当は、従業員の能力の向上を図るために、社内・社外問わず、さまざまな研修を企画し、運営するのがメインの業務となります。新卒で入社する新人向けの研修や、中途入社向けの研修だけでなく、管理職向けのマネジメント研修などもあるでしょう。

他にも、資格を取得させるための研修や、ハラスメント研修、ジェンダー理解のための研修を企画をすることもあります。業界のトレンドや、法改正、社会変化を常に捉え、会社の成長につながるよう従業員の育成をする重要なポジションです。また、従業員の能力を把握した上で、その人物が最大のパフォーマンスを発揮できるようなキャリアを一緒に考えたり、人材の最適な配置を考えるタレントマネジメントを担う場合もあります。

採用担当の人事は「採用人事」と呼ばれ、そのまま募集職種名として使われることがありますが、研修担当のことを「研修人事」とはあまり言いません。求人票には、「人事(研修担当)」や、「人材開発」のような表記をされることが多い印象です。

キャリアの注意点としては、採用人事と同じく「研修しか経験がない」状態が長く続くと他の人事業務に移りづらい点です。まずは、「研修がメイン、採用も一部携わる」ようなポジションを目指してみましょう。採用担当は人手が必要なので、制度企画や労務よりも「お手伝い」として関われる可能性が高いです。研修と採用の経験があれば、転職先の選択肢も増えるので、そこから徐々に幅を広げていくこともできるでしょう。

制度企画について

従業員を正確に評価する評価制度、それに見合った報酬や役職を与える給与体系、昇進制度など、組織内のさまざまな人事制度の策定・改善を担うのが、「制度企画」の領域です。制度企画は組織全体の人事制度や方針に関わる立場なので、他の3つの人事職よりもやや経営寄りな側面があると言えます。

正当な評価がなされないと、従業員の満足度が下がり、離職に繋がってしまいますよね。そうした離職を数多く見た採用担当者や研修担当者が、「せっかく採用した人材が不満を持って退職してしまう」「せっかく育成した人材が他社に転職してしまう」ことに課題を感じて、制度企画を志すパターンはよく聞きます。

経営に近く、人事経験者が憧れる領域であることから、一見キャリアパスに不都合はなさそうに見えますが落とし穴はあります。それは、業務が長期スパンであること。人事制度の見直しは組織形態や従業員数が変わるタイミングでなされることが多く、頻繁に行われるものではありません。そのため、「自身が制度企画で成果を出した」と言えるまでにある程度の年数が掛かることも。

さらに、その会社に最適な制度が他社で通じるとは限りませんから、一つの会社での制度企画の経験が長いことは必ずしも歓迎されるとは限らないのです。対策としては、人事領域を幅広く経験しておくこと、業界を超えても応用できるビジネス知識(会社の経営戦略や事業計画の理解)を身に付ける、などが挙げられます。

また、経営に近いという観点で似ている職種に、HRBP(Human Resource Business Partner)や組織開発、ダイバーシティ推進などがあり、近年注目されています。これらの人事系職種では経営層とのやりとりが発生するため、目指す場合は、プロジェクトの推進力や調整力を磨いておくことも必要です。

人事労務について

労務担当は、従業員がより働きやすいような環境を作ることがミッション。業務内容は、給与計算や勤怠管理、入社・退職手続きなど多岐に渡ります。制度企画や研修担当に比べてオペレーション業務の比率が高く、「労務事務」と呼ばれ、事務職にカテゴライズすることもできる職種です。

法律や社会制度の知識を得られるなど専門性が高い反面、採用担当や研修担当のように「従業員と個別に接する」経験はあまり得られません。事務職の要素が強いため、労務経験しかない方が「人事経験あり」とアピールして転職するのは難しいと言えます。

徹底的に労務をきわめて、部門の責任者になるか、給与水準の高い企業に転職するのが年収アップのルートにはなりますが、非常に狭き門なのは言わずもがな。30代以降も人事でキャリアを広げていきたい場合は、やはり採用経験は積んでおいた方が良いでしょう。

経験領域の狭さを挽回するには

人事畑でキャリアアップを目指す転職者の方へのアドバイスは大きく2つあります。

まず、採用経験がある20代の方には、他の人事領域も含めて幅広い人事職の求人を見ていただきたいということ。ここまで読んでいただければお分かりのように、早い段階から計画的に幅広い経験を積んでおくことが、人事としての将来のキャリアの選択肢を広げることになります。特にHRBPなど経営に近い職種にステップアップをお考えであれば、幅広い業務経験は必須です。

二つ目は、経験領域が狭い30代以上の方は、「選考でアピールすべきポイントを間違えないように」ということです。「採用だけ」「研修だけ」であっても10年以上経験を積んでいるようなプロフェッショナルな30代であれば、まだ転職時の選択肢はあります。しかし、例えば大手企業にお勤めで30代になってからジョブローテで人事に異動した程度の経験だと、「狭い」と「浅い」のコンボになってしまうため、企業の応募条件をなかなか満たせず、応募先が少ないのが実情です。

なので、書類選考や面接で、ご自身の経験と応募企業のニーズがマッチしていることを的確に伝えるのが重要になります。

目標に対して、「こういう観点」から「こういう施策」を実施して、そこには「どんな課題」があり、「どうクリア」していったのか。あるいは逆に、受けようとしている会社に「どんな課題」があると見えていて、それを人事として「どう解決」したいのか。こうした観点で自分をアピールできる必要があります。

これらは転職活動以前に、普段のお仕事から意識すべきことかもしれません。自社の採用活動の際に、会社が今どんなフェーズにあり、それゆえにどういうことができる人材を求めているのかをしっかりと説明できる人事の方であれば、ご自身の転職にもそのまま役立つのではないでしょうか。

とは言え、採用経験がいくら豊富でも自身の転職活動となるとアピール下手になってしまうのはよくあることです。人事のキャリアにお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談くださいね。