「デジタルマーケティング」の拡大でマーケターの転職先選びはどう変わったか

「デジタルマーケティング」の拡大でマーケターの転職先選びはどう変わったか

冨田凌平
2023/02/06

マーケティングのご経験がある方からよくお受けするご相談の一つに、「事業会社と代理店のどちらに転職すべきか」というものがあります。この問いは恐らく昔からある普遍的なお悩みだと思いますが、ここ十数年で一気に成長しているデジタルマーケティングにより、その問いへの考え方は少し複雑になってきているかもしれません。
本日は、デジタルマーケティング経験者のキャリア選択についてお話できればと思います。

「事業会社に行きたい、でも……」という悩み

今も昔も、「最終的には事業会社のマーケターになりたい」と仰る方は多い印象です。ただ、20代~30代中盤のご相談者様が悩むのは、「“今すぐ”事業会社に行くべきなのか」という点。ある程度マーケティングの経験を積んだものの何となくまだスキルが足りていないように感じていて、この先どこでどんなスキルを身に付けたら最終的に事業会社に辿り着けるのかを考えていらっしゃいます。

また、リアルイベントなどオフラインのマーケティング経験者の方がデジタルマーケティングの領域にチャレンジしたいというご相談も増えています。要因としてはやはりデジタルマーケティングの進化が挙げられると考えます。つまり、インターネット上のデータだけでなく、店舗での購入行動といったリアルな場面のデータも取り込みデータ化し、双方を活用したマーケティングができるようになり、マーケターの知識・経験も「オンラインとオフライン両方必要」な状況になってきているのです。

そうした中で、転職者の方は「事業会社と代理店、どちらに行くとどんなスキルが身に付くか」を慎重に検討し、今の自分に合った選択をする必要があると気づき、我々にご相談してくださっています。

「どうしたら事業会社に転職できるか」から、「最終的に事業会社に行くには今どうすべきか」というようにお悩み自体も変化してきていることを感じています。

デジタルマーケティングのニーズ増加に伴う事業会社・代理店の変化

では、企業側はどうでしょう。電通の調査によると、日本の総広告費は2021年にはインターネット広告がマスコミ4媒体広告費を初めて上回りました。言い換えると、TVや雑誌などよりも、スマートフォンやパソコンを使用するユーザーに重きを置いたマーケティング戦略を打つ企業が増えたということです。

こうした状況の中で、事業会社と代理店でも変化が起きています。それぞれ簡単にまとめると以下のようになります。

◆事業会社の変化

マーケティングの手法が増え、スピード感も求められることから自社マーケターの重要性が高まっています。

デジタルマーケティングはものにもよりますが、参入障壁は比較的低く、未経験の方でも取り組むことが可能です。例えば、SNSのアカウント運用や企業紹介動画などを自社ホームページにアップして認知度を向上させることなどは、もはや誰にでもできる時代です。そのため、代理店に頼らず、既存の社員たちでそういったマーケティングを始める事業会社が増加しました。

マスコミ4媒体と言われている「新聞「雑誌」「テレビ」「ラジオ」が主流だった時代は、それら媒体の枠をどれだけ持っているかが広告代理店の強さであり、事業会社はそれに頼るしかありませんでした。しかし、上記の通り「SNS広告やってみよう!」となったら事業会社自身がすぐにやってみることができる時代になりました。

また、大手代理店だけでなくさまざまな専業代理店も増えているため、代理店に依頼する場合も「どこに依頼するか」を事業会社側が選べるようになりました。

◆広告代理店の変化

一方代理店側は、そうした新規参入の広告代理店の増加と事業会社のマーケティング理解の深まりという2つの理由から、事業会社に「選ばれるため」により高いレベルのマーケティング知識を付けたり、営業活動を頑張らなくては案件をとれない状況になっています。

とは言え、データ量を豊富に持つ大手代理店にノウハウが溜まりやすいため、大手の事業会社クライアントはやはり大手代理店に集まる傾向が続いているようです。

ゴールを見据えた「今」の選択を

デジタルマーケティングの登場により、事業会社側のマーケティング理解が徐々に進んでいること、マーケティングの種類やノウハウを増やして新たな戦い方をしている代理店と、それぞれ形を変えて関係性が続いています。

では改めてマーケターはどちらを選択したらよいのでしょうか?

以前は、事業会社のマーケターは代理店からの提案ありきで判断するため性質をざっくり分類するなら「受け身」タイプの仕事と言われていました。しかし、上記の通り、インハウスでマーケティングをするようになり、「自発的にアクションを起こせる人」を事業会社も求めています。つまり採用ニーズが広告代理店と似てきているということ。

自分で考えてどんどん新しいマーケティングを試したいという人は、以前なら代理店がおすすめでしたが、今やわざわざ代理店に転職しなくてもいいかもしれません。ただしこれはかなりざっくりした話ですので、私が転職者の方とお話しする際はまず最初に「最終的にどうなりたいか」をお聞きするようにしています。もう少し具体的にすると、「目指す事業会社はどういう事業会社なのか」ということ。

例えば、最終的に行きたいのが大手事業会社であれば、大手代理店で経験を積んだ方がいいと考えます。なぜなら、大手代理店のクライアントには大手事業会社が多いため、「大手の予算規模」を経験することができるからです。「とにかく幅広いクライアント、商材、ターゲットの経験が積めるのは代理店」という考えで中小規模の代理店に転職してしまうと、大規模案件に関わる機会がなく、大手事業会社で求められるスキル・経験はいつまで経っても身に付かないということに。

逆に、目指す事業会社が、商材やターゲットが限定されている会社なのであれば、莫大な広告予算に触れる経験よりも、「一人で全部まわせる」経験の方が重宝されるでしょう。中小規模の代理店であれば、一社につきマーケターは一人だけ、しかも同時に何十社も担当するなんてことも一般的です。大手代理店の若手など、大手一社のプロジェクトチームの末端で何年も……ということもあり得ます。

これはどちらが良い悪いという話ではもちろんありません。「目指すゴールとの乖離」を埋めるにはどうしたらいいかという視点で転職先を選ぼうということです。

まとめ

事業会社で経験を積むこと、代理店で経験を積むことそれぞれにメリットは大きく異なります。デジタルマーケティングの進化はさらに進み、業界全体もさらに大きく変わっていく可能性もあります。

ご自身のキャリアにとって何がプラスなのか、業界全体の将来も想像しながら「今」の転職活動を進めていただければと思います。