前回は、20代で転職を実行する場合の留意点などをお話ししましたが、今回は30代での転職について考えていこうと思います。これまでの連載を通じ、私たちキャリアアドバイザーがお伝えしてきたように、年代が上がれば上がるほど、採用する側の目線も厳しくなります。とりわけIT業界の技術者については、多くの企業が年代ごとに一定の水準を求めます。20代は経験不足であっても、高い成長意欲をこれまでの行動で示すことが出来れば、将来性を買ってもらえるケースも多いですが、30代は即戦力が求められるケースが圧倒的です。
では、30代の転職志望者に企業は何を求め、採用担当者は具体的にどんな視点で志望者を見つめているのでしょうか。前回同様、実際の面談の後に多数の企業から寄せられたフィードバック資料から、いくつかをピックアップして表にまとめてみました。
■SI の面接後フィードバック
30 歳 |
1000 名 |
・人柄は良かった |
・技術志向だが資格取得なし。得意分野のアピールもなく、経験値も高くない |
31 歳 |
500 名 |
・人柄は良かった |
・当社に入りたいという熱意が感じられなかった |
33 歳 |
1000 名 |
・可もなく不可もなく、普通、といった印象 |
・「PMやリーダーを積極的にやりたい」というキャリア感を持っていなかった |
34 歳 |
500 名 |
・開発スキルがある ・人柄も良い ・育成についても熱意がある |
・5年後、10年後のキャリアビジョンがあやふやだった |
■自社製品・サービスベンダー の面接後フィードバック
30 歳 |
100 名 |
・真面目で、愚直に素直に取り組める印象 |
・テクニカルなスキルが不足している。言われたことをやってきたような印象 |
36 歳 |
100 名 |
・技術レベルについて、現場が高く評価していた |
・管理に対する考え方に疑問。管理スキルの成長イメージが沸かなかった |
■社内SE(ユーザー系) の面接後フィードバック
30 歳 |
2000 名以上 |
・Javaが使える ・1社経験で、開発もしっかりとやっている |
・第一印象で交換を持てなかった。緊張のせいかもしれないが、ツンとして見えた |
35 歳 |
1000 名 |
・C#開発やアプリケーション方式設計経験など、明確な得意分野を持ち、即戦力として期待できる ・話も分かりやすく、好感が持てた ・自己紹介の内容も要点を抑えてわかりやすく、頭のよい方だった |
・これまでの開発規模が小さく、即戦力でPMを任せられるか疑問 |
35 歳 |
1500 名 |
・行動力はある |
・思考に固いところがあり、あまり柔軟性がない ・業務についてはやれと言われたことをやっている印象 ・資格にチャレンジしたいとのことだが、あまり必要性を感じていない様子 |
前回同様、SI、自社製品・サービスベンダー、社内SEといった企業側の属性による違いを感じ取ることは可能ですが、むしろいずれの属性でも前回の20代に対するコメントより厳しい評価になっています。年齢的に即戦力を期待されるわけですし、多くの場合、入社後はそれなりのポストに就き、若手社員をリードしていく役割も任されることになりますから、評価基準が厳しくなるのは当然です。どの様な点が厳しくなっているのか、その特徴を分析してみましょう。
■第1の特徴=「スキルの幅の広さ」と「突き抜けた力」
表を見ていただくとわかる通り、お人柄を評価されている候補者が技術面で懸念されていたり、逆に技術面で評価されていてもお人柄に懸念を持たれているようなケースが目立ちます。採用する側の企業が、いわゆる技術上のスキルだけでなく、ヒューマン・スキルと呼ばれる人間力もまた求めていることを裏付けています。
その為、30代の転職志望者の方から相談を受ける際には、この様にアドバイスを差し上げています。「面接ではテクニカルスキル、業務・業界知識、マネジメント力、経験してきた案件の規模、得意としている開発フェーズやレイヤー……、これらのポイントを網羅的に採用する側は確認をします。特定のテクニカルスキルが卓越している場合は高い評価に至るケースもありますが、30代の転職においては、技術スキルとヒューマンスキル、双方のスキルを一定以上求められる為、スキルの幅の広さが重要視されます。」また幅の広さのみならずその経験の深みについても確認されます。
ITエンジニアのキャリア志向は「技術を追求してきたいという技術志向」か、「チームやプロジェクトをマネジメントする存在になりたいというマネジメント志向」のどちらかに分かれるケースが多いですが、30代を迎えた時、前者であれば「すでに突き抜けた力を持ち、これを発揮した実績」が問われ、後者であれば「多様な課題を解決できるだけの幅広いスキルを持ち、ヒューマン・スキルを発揮してチームをまとめた実績」の有無などが問われます。尚表の中には、技術レベルも人柄も評価されていながら、過去に経験したプロジェクトの規模が小さいことを懸念されているケースもありました。
30代の転職においては、この様に即戦力を前提に細かくジャッジされることも往々にしてあります。
■第2の特徴=「キャリアビジョン」や「成長イメージ」
自分が目指す将来像を語ることは、20代だけでなく30代にも必要です。いかに即戦力として厳しい目線にさらされようとも、高い自己実現欲求や成長イメージを持つ人材は評価されるのです。
ただし30代では20代よりも更に、その将来像に対してどれだけこれまで努力を重ねてきたか、その具体的なエピソードが求められます。これまでの連載でも触れたポイントですが「将来やりたいこと」と「今できること」の間にはギャップがあります。20代ならば多少のギャップがあっても熱意や意欲が伝わればポテンシャルで採用されるケースもありますが、社会人になって10年ほどを経過した30代であれば「やりたいこと」に近づいていくために、具体的にどんな努力をしてきたのかを企業はチェックします。
今後のビジョンを語る場合にも、30代の転職志望者は確かなイメージの有無を問われます。上記の表にもそうしたコメントが並んでいます。実現可能なビジョンをきちんと持ち、これをしっかりと伝え、納得させることができれば、それはリーダーの資質としても評価されます。
これまでにやってきたことを客観的に捉えた上で、現実的なビジョンや将来像を語ることは、30代にとって非常に重要な事柄なのです。
■第3の特徴=きちんと主張を伝えて動く自走力と、相手を巻き込んでいく力
表に並べたコメントの中で、もう1つ目立ったものがあります。それは「言われたことだけをやってきた印象」という懸念点。
30代は、SIならば何らかのチームのリーダーを務めたことを期待され、自社製品・サービスベンダーや社内SEでも、自発的に行動して成果を上げた実績を期待される年代です。そうした経験の有無は選考段階で確認されるでしょうし、面接での受け答えについても「自らの考え方をしっかりと伝える力があるかどうか」「そこにいる人たちを巻き込んでいくような力があるかどうか」をチェックされます。
採用担当者の気持ちにピンとこなかった場合、表にあるように懸念を持たれてしまうわけです。技術者であっても40代が近づくにつれ、「案件を担当する力」ばかりでなく「案件を作り出す力」も問われるようになります。PM、マネージャー、リーダーに相応しい能力を30代でマスターした人は「次のキャリア」を目指す選択権を得やすくなります。単に「転職に成功する」ことばかりにとらわれず、将来のキャリアビジョン達成の為、一つでも多く「自ら率先して動いて仕事を進めた経験」を積み、それを面接でアピールすることが肝要と言えます。
以上のように、30代は真の力が厳しく問われる年代です。ですが、不足しているものに気づけば、まだ間に合う年代とも言えます。幅広いスキル、突き抜けた力、確かなキャリアビジョン、周囲を巻き込む力などなどを高スピードで獲得できる環境さえ手に入れば、一気に成長速度を上げ、道を開いていくことは可能なのです。