これまで4回の連載を通じ、求職者の実態や企業の本音について分析をしてきました。今回からは、年代ごとにテーマを絞り、より良いキャリア形成のための準備につなげていただこうと思います。
今回とりあげるのは20代。キャリアの出発地点から10年弱の間に、エンジニアはどういう経験を積み、そこからどのような能力を築いていくべきなのか。
それができている場合とできていない場合とで、どれほどの差が転職市場で現れるのかを見ていきましょう。
実態を把握するために、まずは以下の表を見てください。私たちが関わった転職において企業サイドから寄せられた本音の声の一部をまとめたものです。
私たちキャリアアドバイザーは、こうした「採用する側の本当の気持ち」を毎回お聞きし、その本質を理解することで、皆さんへのアドバイスに役立てているのです。
■SI の面接後フィードバック
24 歳 |
500 名 |
・金融系の案件に携わってきているので、プロジェクトベースでの経験をしっかり積んでいそう |
・開発経験(VB.NET)は2年だけど、地頭が良くキャッチアップがはやそう |
26 歳 |
500 名 |
・開発環境や携わってきた開発工程を職務経歴書にきちんと書いており、自身のスキルについて客観的に理解できていそう ・積極的に資格も取得し、自己学習も行っている印象 |
・特に無し |
28 歳 |
500 名 |
・人柄が良い。キャッチアップへの意欲が高い。大学時代にJavaの経験有り |
・前職ではCOBOLが中心だったため、キャッチアップがどれくらいできるか気になる |
28 歳 |
2000 名以上 |
・人柄が素晴らしい |
・前職がシステム子会社で、汎用系や小規模プロジェクトの経験が主体だという点 |
■自社製品・サービスベンダー の面接後フィードバック
24 歳 |
500 名 |
・もの作り志向が強く、アプリケーションエンジニアとして当社の志向性とマッチしている ・「よりお客様目線で開発がしたい」という志向性も、顧客志向の同社にぴったり合っている |
・開発スキル自体は弱い(ただし志向性と開発スキル以外の強みを評価して書類通過) |
27 歳 |
500 名 |
・若手ながら、開発工程の一連の流れ(機能検討~導入)を経験している ・お客様との折衝も経験しており、最低限のビジネスマナーやコミュニケーションスキルは備わっている |
・特に無し |
28 歳 |
1000 名 |
・通信業界を経験している、Javaでの開発経験もしっかりある ・コミュニケーションは高い ・「上流だけじゃなく、プログラミングもしたいという志向が当社と合致 |
・特に無し |
■社内SE(ユーザー系) の面接後フィードバック
24 歳 |
500 名 |
・技術者としてより管理者(PM)としての方向に進みたい気持ちが強い ・人物的に好感が持てる ・開発を経験した上で、評価されてリーダー業務を任されている ・小規模プロジェクトを多数経験している ・製造開発はもちろん、要件定義や顧客折衝も一通り経験している |
・年齢が若く、まだ十分に成熟していない面もある (ただし、この世代の上位層と比較しても遜色ないと思える) |
27 歳 |
500 名 |
・人柄・スキルともに完璧とはいえないが意欲の高さを評価 |
・技術経験の幅が狭い(VB .NETのみ) |
上記の表を見てもおわかりのように、企業によって評価点や懸念点のコメントは異なります。前回の記事で詳しく触れたように、一言で「エンジニアの転職」といっても、社内SEを目指すのか、SIを目指すのかで、採用側が求める要素は違ってきます。また今回の表で示したように、企業の規模によって採用ポイントが変化するケースも少なくありません。
ただし、企業の本音に触れ続けてきたキャリアアドバイザーという立場から、20代の転職に見られる大まかな傾向はお伝えできます。
■第1の特徴
第1の特徴的傾向は、技術や経験値に対する評価は30代以上の方々よりも甘めになるということ。言語やプラットフォーム、あるいは携わってきた工程について、習得の度合いや関わり方の深さを尋ねられることはあるでしょうけれども、それだけで採用・不採用が決まるとは限らないのが20代です。むしろ「現状の力」以上に重視される傾向にあるのが「自己の能力を向上させようという意欲」の有無です。口頭で「意欲はあります」と語るのは簡単ですが、それだけでは説得力に欠けます。やはり行動によって意欲のほどを示せるかたのほうを、採用する側は評価します。例えば汎用性の高い技術(言語でいえばJavaやC#など)を自分なりに学習しているかた、あるいは、基本情報技術者、応用情報技術者などの資格を取得して、開発技術を体系立てて学んできたかたであれば、「意欲がある」と認められる可能性は高くなります。
■第2の特徴
第2の特徴的傾向は志向性。IT企業にはそれぞれ重視している価値観や社風、人材観や技術上のこだわり等があります。そうしたものと、転職希望者が提示する「自分はどうなりたいのか」という志向や価値観というものがフィットすれば、「当社に相応しい姿勢の持ち主」として評価されるわけです。先の表の中にも「志向性の一致」を評価点に挙げている企業がいくつかあるのでご納得いただけると思います。
ただし、表には表れていない20代ゆえの問題点もあります。それは事実を正しく認識していないかたが多い、という問題。例えば社内SEを「安定した仕事」や「何となく楽そう」だという発想で選択しようとするかたは少なくありません。そういうかたには、先月の記事で紹介したような事実をお伝えして、それでも社内SEに行きたいのかどうか、そこでどういう自分になっていきたいのかについて話し合うようにしています。また、自社製品・サービスベンダーの中でも特に人気の高いBtoCのWebサービス企業についても、採用側が求めている本音のポイントをお話しするようにしています。若いエンジニアにもかなり高度な技術力を求める傾向があることや、エンドユーザーとダイレクトにつながる業態ゆえ、サービス志向の発想を備えているかどうかが問われる傾向についてです。SIの場合でいえば「将来的にPLやPMになりたい」といったマネジメント志向の有無を、20代のかたにも確認しようとする傾向があります。特に20代後半のかただった場合、「マネジメント志向があるというのならば、現状、どんな努力をしているのか」を採用側は知ろうとします。
■第3の特徴
3つめの特徴的傾向は、転職希望者の方々が共通して抱きがちな問題点です。それは自身のキャリア形成についてのプランやビジョンが短期的視点に偏りがちだということ。ここまでにお伝えした通り、20代の転職では「意欲」や「志向性」さえ認められれば、ポテンシャル(潜在能力・将来性)で採用されるケースが他の年代よりも多くなります。また、現状はエンジニア不足に悩む企業が多いため、求職者側にとっては「内定を獲得しやすい」状況もあります。それだけに、キャリアアドバイザーの我々としては不安も大きくなります。30代になってから転職を目指せば、確固たる技術力やマネジメント力、さらにはベンダーコントロールのスキルや交渉力などなどが問われます。誤った業界認識や目先の華やかさだけで20代の転職を決めてしまった場合、30代以降になってキャリア形成や自己の成長を考え直すタイミングが来た時に、選択肢が失われていることも考えられるのです。30代、40代になった時、エンジニアとしてどのような立場に就き、どういう仕事をしたいのか。これを若い時からきちんと考えておく必要があるのです。
多くの場合、私が転職希望者の皆さんに提言するのは、エンジニアの基本中の基本である技術力をしっかり磨くこと。そして、長期的視点で自分自身を成長させていけるような企業と出会うためにも、偏見や大雑把な業界認識を取り払い、自分の価値観と一致するところをしっかり見極めることです。
次回は、20代と異なり、厳しく実力を問われることになる30代でのキャリアチェンジについてお話をしようと思います。