今回は、企業の本音について考えてみたいと思います。
近年、採用市場には求人があふれており、転職がしやすい状況だと思われがちですが、当然のことながら企業は、いつの時代にも真に優秀なかたを求めています。では、企業は何を基準に「採用するか否か」を見極めるのでしょう?
「本音の部分はわからない」と求職者は考えがちですが、そんなことはありません。「本音」は求人票の記載に隠されています。エンジニア採用でよく見受ける募集要件を例にあげ、「本音」を読み解いていきましょう。
■よくある求人の内容と、そこに隠された本音
技術力 |
言語不問 |
・どのような案件でも対応ができ、柔軟に動くことができるか ・システムの基礎的な動き、構造を理解しているか |
オープン系言語の開発 |
手を動かした経験 |
・現場間を把握しているか ・何かトラブルが発生した際に対応ができるか |
経験値 |
PLの経験 |
・顧客と接点を持ち、顧客の要望の理解/提案を行っているか ・プロジェクトのメンバーに対して的確に指示を出し、 進捗の管理を行えているか ・コスト、利益感覚を持って仕事ができているか |
PMの経験 |
顧客折衝経験 |
開発リーダ経験 |
・開発技術をメンバーに伝承できるか ・技術構造を理解して顧客と話せるか |
ベンダーコントロール |
・顧客、ベンダー、社内をそれぞれ動かす管理能力を持っているか |
上の表に示したように、求人票には短い言葉で要件が書かれています。例えば「PLの経験」と書いてあれば、文字通り「PLを経験したことのある人」を企業は求めていることになりますが、本当に知りたいのは、表の右側に書いたように「PLとして何をしてきたのか」についてです。経験の有無や、経験の量もさることながら、そこで担った役割、つまり経験の中身を重視する……それが企業の本音。
企業が「今まで何をしてきたか」を問う理由は、この問いかけを通じて「うちに入ったら何ができるのか」「何を任せられるのか」を知ろうと思うからです。転職を希望する技術者の側には「してみたい仕事」「任されたい役割」というものがあるはずですし、そこを基準に志望企業を選ぼうとするはずですが、当然のことながら「今までにしてきたこと」「体得できたスキル」と「したいこと」とが合致していなければ、仮に志望企業から内定を得ても、その会社で「したいこと」を即座に担えるとは限りません。まずは採用側の視点で自らをチェックしてみてください。「自分にはどういう専門性があるんだろう」、「汎用性のある能力についてはどうだろう」と、客観的に分析をすることで、「今できること」と「現時点ではできないこと」がはっきりします。こうした自己分析を行った上で、求人票を見るようにしてください。
また、求人票には必ず複数の募集要件が書かれています。箇条書きされている数々の要件を1つひとつチェックしていく人が大部分かと思いますが、それだけで終わらず、各要件を掛け合わせして見ていく手法も試してみると、企業の本音が深層まで見えてきます。わかりやすい例を挙げれば、以下のようになります。
企業の期待
- 技術視点で物事を語れるリーダ
- いざとなったらコードを書ける
このように、求人票に「PL経験」「開発経験」と併記されていたのなら、企業はそれぞれの経験の有無だけでなく、「この2つの経験を活かし、紐づけることができる人なのかどうか」を知ろうとしています。PL経験と開発経験の双方を持つエンジニアがいれば、企業は「開発者目線でリーダーシップを発揮できる」ことを期待するわけです。このような「企業の本音」に応える力があるのかどうかについても、あらためてご自分に問いかけてみてください。
企業の「本音」はまだまだ求人票から読み取れます。採用時、多くの企業は「今すぐ貢献してくれるかどうか」ばかりでなく「将来的な期待」も考慮します。下の表はあくまでも一例ですが、求人票に書かれている要件から、「将来的な期待」が何なのかを推測していくことは決して難しくないはずです。
20代 |
オープン系開発経験 |
開発力の発揮 |
開発のわかるリーダーとしての活躍 |
30代 |
リーダー経験 |
顧客との調整能力発揮 |
お客様への提案・交渉ができる責任者としての活躍 |
40代 |
PM経験 |
コスト、納期を含めた管理、提案能力発揮 |
事業を率い、利益を考えられる責任者としての活躍 |
「入社時の期待」に応えてくれそうな候補者が複数いて、そこから1人だけ選ばなければいけないような時には、企業は「将来の期待」に合致するかどうかで最終決定を下す場合もあるのです。では、どうすればこの「将来の期待」に応えられるのでしょうか?
例えば企業が「上流工程を任せられる技術者が欲しい」ということで募集をかけた場合を考えてみましょう。理想的なのは経験値やスキルすべて揃っていて、そのレベルも十分評価に値するかたです。しかし、そういうかたばかりではありません。「ぜひやりたいと思っていました。まだ●●の経験は少ないのですが頑張ります」というようなかたはどうなるのか? やはり「できること」と「したいこと」との間に溝があれば、すんなりとはいきません。私たちがお勧めしているのは、まず「したいこと」をぼんやりとした願望で終わらせずに、経験者等から情報を集め、可能な限りリアルにイメージすること。そして次に、そのイメージに対して「自分ならばこうアプローチする」「少なくとも今持っている経験値の内、●●や■■ならば活かせる」というように語れるようになること。「したいこと」へ一歩でも近づくための具体的なビジョンを持つことです。
皆さんの中には不安を感じるかたもいるでしょう。例えば「今は○歳だが、まだ××を経験していない」というように。けれども、自分に不足しているものがわかっているならば、次のステップに進めます。
「現在いる部門から異動できるよう働きかけて、不足しているスキルや経験を獲得する」
「担当するプロジェクトの内容や、そこで担う役割を変えられるように努力する」
上記のようなアクションが可能な職場にいるのであれば、十分有効なアプローチだといえます。では、「現職にはそういうチャンスがない」という場合はどうすればいいでしょうか? こうした相談を受けるケースは少なくないのですが、多くの場合、私たちは「多様な案件と出会い、種々の経験にチャレンジでき、実績を築いていける場」としてSIをご提案しています。SIは幅広い技術環境や顧客接点を経験できる場です。しかもキャリア形成上の選択肢を幅広く備え、エンジニアを鍛えあげてくれるフィールドを持っている企業もあるからです。
冒頭にも申し上げたように、今現在、エンジニアの転職市場には多くの求人があふれていますが、だからといって安直に行動するのではなく、「企業の本音」を探り、「今の自分に不足しているもの」を自覚したうえで、成長を手に入れられる場を模索してほしいと思います。では「今の自分に不足しているもの」とは何なのか? 自身を客観的に把握することは簡単ではありません。
そこで、次回は在籍している企業や、担当している職務、属性によって現れてくる傾向についてお話します。